83 邪馬台国への行程 3 對馬國「魏志倭人伝」
3 七千餘里 始度一海千餘里 至對馬國
其大官曰卑狗 副曰卑奴母離
所居絶島方可四百餘里 土地山險多深林 道路如禽鹿徑
有千餘戸 無良田食海物自活乗船南北市糴
3 七千余里にしてはじめて海を度り、千余里にして対海馬國に至る。
その大官を卑狗といい、副を卑奴母離という。
居所絶島にして、方四百余里ばかり、土地山険かつ深林多く
道路は禽鹿の径の如し。
千余戸あり。良田なく、海物を食して自活し、
船に乗り南北に市糴す。
対馬国とはコルキス島対馬(つしま)国とは、ギリシャ北西岸のコルキス島です。
コルキス島はケルキス島ともコルフ島ともスケリア島とも呼ばれています。
東地中海の海上交通の要衝の地として華々しく歴史の舞台に登場したことでもわかるように、重要な島です。
「初めて海を渡る」という記事から、これまでイタリア半島に沿って南下していたことになります。そして、
1000余里は100キロメートル余ですから、イタリア半島の狗邪韓国=ガリアから120キロ渡ってきたところにあるコルキス島は、条件も距離も一致しています。
「官を卑拘」「副官を卑奴守」というとは卑弥呼女王の官制下にあるということで、卑弥呼直属の軍人「卑狗」と卑弥呼直属の船人「卑奴母離」が配置されていたようです。
奴はヌ(ナウ)で船ですから、造船所や修理ドックがあり、乗組員が待機していることを示唆した官名であると考えられます。
1000戸、4、5千人ほどの人々が住んでいたのでしょうか。
コルキス島とオデュッセウスコルキスとは、キルケーの名前からきているのですが、オデュッセウスがかかわったナウシカ姫、キルケー、カリプソーは、何れも「太陽神ヘーリオスと女神ペルセーイス」の一族で、この一族は、いずれも怪物揃いです。
そこで、ここでは。一つ目や鬼女、魔女、また魔法に縁のある話が集約して出てきます。
ホメロスの「オデュッセイア」では、オデュッセウスがトロイア戦争からの帰途、幾多の苦難の果てに故郷イタカ島に帰り着くその前の場面で、オデュッセウスは一つ目巨人ポリュペモスのもとから逃れて航海をつづけるのですが、ポリュペモスの父ポセイドンの怒りに触れ、乗っていた筏が嵐に吹き飛ばされ、身にまとうものひとつない状態でスケリア島の海岸に漂着しました。それが、このコルキスです。
ここで、この島の王の娘のナウシカ姫に出会い、王の宮殿に滞在したという重要なシーンの舞台となった島です。
「オデュツセイア」で、王女ナウシカが、オデュッセウスを宮殿まで道案内したことに対応しているのが、「魏志」倭人伝の「鹿の道」のフレーズで、これは、「ナウシカ」姫の名前は「船に優れた」という意味ですが、ギリシャ語のナウ=船と日本語の鹿との合成語であることを、「魏志倭人伝」の「鹿の径」というフレーズが物語っているようです。さらに、「製鉄」の最重要な部分が造船であることを物語っていると考えられるのです。
ホメロスの「オデュッセイア」には、王女ナウシカの島での船の調達の描写がでていますし、オデュッセウスはここで船を用意してもらって、その船で故郷に送りとどけられています。
コルキス島には、よい入り江があり、造船用の材木を、トラキアやマケドニアあたりから調達するのにも至便な場所であり、古代において、船を建造するのに最適な条件を備えている島であったように見受けられます。
ナウシカ姫の祖父であるパィエークス王ナウシトオスが、「一つ目のキュクロプスを逃れて移り住んだのがこのコルキス島である」ともされています。
ところが、この話は、オデュッセウスが、「一つ目の巨人ポリュペモスの目を潰して、その一つ目巨人に追われてコルキス島にたどり着いた」というケースとも同一です。
海神ポセイドン一族のガラテアがキュクロプスのポリュフェモスと結婚して、生まれた子供たちが、それぞれケルト(クレタ)人、イリュリア(トロイア)人、ガラティア人の祖となったのですから、「クレタとトロイアの衰退」と「ポリュフェモスの目を潰して、逃げた」こととは密接な関係があるはずで、史実に照らしてみると、それは、「ヒッタイトを潰して遷都した」ことを示唆しているのではないかと考えられます。
世界最古のたたら製鉄民族のヒッタイトの遺跡から、青銅の鹿や牛のスタンダードといわれている旗竿の天辺のエンブレムが出土することが知られていますが、中でも、最も重要と思われるのが「目印=同心円紋の付いている鹿」のスタンダードです。
ヒッタイトの鉄のシンボルが「一つ目」と「鹿」であったことが伺えるのですが、「ナウシカ」姫の名の「ナウ」は、「アルゴナウテス」のナウ、即ち「船」を意味し、「シカ」はたたら鉄のシンボルの「鹿」で、「船と鉄」を表象している名ではないかと推測されます。
「鹿の皮」を内剥ぎにしたものをたたらの「鞴(ふいご)」にしたことが、「古事記」に記されていますので、日本でも「鹿」は、砂鉄(スガ、シガ、シカ)や「たたら」のシンボルであったと考えられます。
ところで、コルキスという名は魔女キルケーからきているのですが、コルキスという名の都市が、黒海の現在のグルジャ西部にもあったとされています。
ギリシャ神話の、コルキス出身の登場人物に、太陽神ヘーリオスと女神ペルセーイスの間に生まれたコルキス王アイエーテース、ペルセース、パーシパエー、キルケー兄妹がいます。
そしてコルキス王アイエーテースの娘が魔術で有名なメディアです。
また、このコルキス王一族にクレタ島の半人半牛ミノタウロスの母のパーシバエーがおり、魔女キルケーや魔術に長けたメディアがいることに注目してください。卑弥呼の鬼道と関係付けられるかも知れないからです。
コルキスは、またアルゴナウタイの目的地であり、アマゾン族のいた土地もそこだろうと言われています。
木村鷹太郎氏は、アナトリアからブルガリアにかけてが、天孫の古い領地であり、この「アマゾーン」とは「天孫」にほかならないと云っています。
ホメロスの「オデュッセイア」では、オデュッセウスと部下たちは、トロイア戦争の帰途にアイアイエー島に漂着したとき、女王魔女キルケーから与えられた食べ物を食べた部下たちが豚に変えられてしまったという事件がおきます。しかし、オデュッセウスはヘルメス神からもらっていた薬草のお陰で豚になるのを免れたばかりか、キルケーによって、部下たちも元の人間に戻してもらいます。
そして、オデュッセウスはキルケーのもとに1年間滞在し、キルケーとの間に息子までもうけます。しかし、部下の要請を受けて帰還することになると、キルケーは安全に航路をわたるための知識や忠告を与えて旅立たせます。
不思議なことには、ヘーシオドスの「神統紀」には、このキルケーとオデュッセウスとの間に息子たちをもうけていると記されています。
ヒュぺリオンの息子ヘリオスの娘キルケーは、
不屈の心持つオデュッセウスと愛を交わして、
アグリオスとまた非の打ちどころなく、
また、力強いラティノスを産まれた。
これらの(キルケから産まれた)者たちは、
遠くの尊い島々の奥処で、テュルセノスたちを治めていた。・・・
「ラティノス」とはラテン人、「テュルセノス」人とは、エトルリア人或はイタリア人をさしていますので、この息子たちは、製鉄産業にいそしんだエトルリアの開祖たちであるということをヘーシオドスは明かしているのです。
これは、ヘーシオドスの「神統紀」の最終ページを飾る頌詞であり、それが、「古事記」「日本書紀」の神代巻の最終ページとピタリと対応していることは既に述べたとおりです。
そして、キルケーの姿を見てください。「牛女」あるいは「鬼女」です。
キルケーの姉妹のパーシバエーとクレタのミーノス王との間に生まれたのもミノタウロスという「牛人間」すなわち「角のある人」でした。
「魏志」倭人伝が、卑弥呼について、「鬼道」で人を迷わせていたと記している根本がここにあるように思われます。
キルケーの「鬼女」「牛女」姿を見ますと、イオニアの海に永遠の名を刻みつけた「イヨ姫」が、牛の姿で彷徨したという神話が想起されます。
ところで、「製鉄&鍛冶=一つ目」という、わが国でもよく知られているこの原則は、ギリシャ神話の天空ウラノスと大地ガヤの子供であるプロンテス・ステロペス、アルゴス、キュクロプスと呼ばれる一つ目の兄弟の子孫のことから始まっているのです。
この三人組の女性バージョンがグライアイ(老女の意味、ギリシャ国名の語源)三姉妹で、体は三体ですが「目一つ、歯一つ」を三人で共用しているという怪物で、やはり怪物のゴルゴンの姉妹にあたります。
日本では、「一つ目」はこれと同じですが、「一つ歯」のほうは、「一つ葉」すなわち「片葉」「片葦」「片足」です。
このキュクロプスたちの両親であるウラノスとガヤをあわせた名を持つ「ウガヤ」王朝のことをわが国の「古事記」と「日本書紀」は「ウガヤフキアエズ」と記しているのですから、わが国の暦史書は、決して「弥生時代」以降のことだけを書いた浅薄な歴史書ではありません。
そして、このウラノスとガヤの子「ウガヤフキアエズ」を連れて逃げて養育し、結婚したのが虹の女神イリス(玉依姫)すなわちトロイアなのです。
日本では、玉依姫の夫の「大物主=大国主」は、「出雲」「三輪」などに分祀されていますが、いずれの神域にも「神奈備山」を擁しています。「パイエークス=キュプロス=(杉)林国」(木村鷹太郎氏の説)との共通思想が垣間見えるのが、三輪神社が杉の木を神紋としていることです。
また「三輪」とは、三重丸の同心円、即ち、「一つ目」を表象する言葉であると私は考えています。
そして、ヤマトとは、「矢と的」を表わし、それは、神=光=矢と的=目を示し、三重の同心円は「目的」「目標」「輪と和」をも表わすという最高の次元の象徴であると思っています。